プロジェクトのカギを握る価格契約方式とは!?-価格契約方式とリスク負担

2024.1.4

 

Happy new year.

備忘のため、前職在籍時にOneNoteに記載していたメモを転記。

 

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プロジェクトのカギを握る価格契約方式とは!?-佐藤隆良の建設コラム特集-価格契約方式とリスク負担 

前回の建設コラム特集では、発注者が建築工事の注文を出す時、工事を請け負ってもらう建設業者を決めるにはどのような方法(発注方式)があるかについて発注・調達編として全5回のコラムにわたり紹介しました。今回は発注者と建設業者との間でなされる建築工事における価格契約のあり方について具体的に説明していきます。 

 
 
 

価格契約方式の種類と特徴を学ぼう! 

 
日本では建築工事で価格を契約する方法として、これまでランプサム契約と呼ばれる総価請負契約一辺倒で行われてきました。しかし近年では、建築工事の内容や契約の状況に応じて総価請負契約の他にも、最適な価格契約方式を採用するケースも出てきています。 

 
さて、価格契約のあり方は、大別すると下記の通り、①定額請負契約方式(Fixed Price Contract)、②実費精算契約方式(Cost Plus Fee Contract)、そして③目標コスト契約方式(Target Cost Contract)の3つがあります。 

 
①定額請負契約(さらにa)からc)などに分かれる) 

 a)総価請負契約 

 b)単価請負契約 

 c)総価単価請負契約 

②実費精算契約(コスト・プラス・フィー契約) 

③目標コスト契約 

 
それでは具体的に先に挙げたこれらの「価格契約方式」におけるそれぞれの特徴と、価格契約方式に基づく契約上のリスク負担について紹介していきたいと思います。 

 
 

①定額請負契約とは!? 

 
この契約方式の特徴は、請負工事業者が工事額を事前に見積り、その工事額で設計図書に定めた仕様通りに完工を約束するものとなります。その為、実際に工事原価がいくらになろうとも工事業者側はその取り決め額で工事を完成させるリスクを負うことになります。 

 
我が国では、この「定額請負契約」は「総価請負契約(Lump Sum|ランプサム)」と全く同じ意味として理解されている場合がよくみられますが、厳密にいうとこの定額請負契約として分類される対象としては、日本で広く採用されている総額のみで価格契約する「総価契約(Lump Sum|ランプサム)」のみならず、土工事、コンクリート工事等の専門工事に契約する「専門工事請負契約」、あるいは工事内訳書の細目工事単価毎での「単価契約」も含まれることになります。「単価請負契約(Unit Price Contract)」による場合でも、事前に工事をその単価で実施するという約束であり、「定額請負契約」に分類されるのであります。 

 
a)総価請負契約 

この「総価請負契約」は受注業者が建設工事を一式総額のみで請負う方式であり、ランプサム請負契約方式(Lump Sum Contract)とも呼ばれ、実質的に我が国で現在採用されている価格契約方式の大部分がこの総価請負契約によるものであります。 

 
この方式の特徴は、契約締結後に設計変更などで当初の契約条件が変わらない限り、実際に工事で要した費用が契約額を超えた場合であっても発注者から追加の支払いはなく、また契約金額を超えない場合には、その金額分を発注者へ返還しなくて良い点が挙げられます。 

 
この方式を採用する場合には、設計図面の完成を待ってから総額を算出した後、契約へと進むのが基本です。その為、総価契約を結ぶ前提として設計が確定していることが基本的な要件となります。また、契約のベースとなるプロジェクトのスコープや設計内容が確定していない場合は、発注者/受注者の双方のリスク負担及び確定内容の程度に対応する価格契約方式が適用されることとなるのが一般的です。 

 
発注者にとっては、支払う工事総額が契約時に確定しているので明確になっており、またコスト管理も行いやすい点、一方、受注者にとっては、契約後の資材や労務費等の物価上昇、や工事費算出時の積算の間違い等があってもそれらを負担しなければならないリスクがあるが、逆に自社の技術力や努力で利益を上げる可能性もある点が、この方式の特徴として挙げることができます。 

 
b)単価請負契約 

「単価請負契約」とは、設計図の完成度が低い段階で契約をする場合や着工を急ぐ場合に用いられ、請負工事の工種ごとに、単位数量当たりの工事価格、すなわち「単価」を決めて行う契約を指します。この方式の特徴は、実際に要した数量や経費は設計図が完成後に計測して、それに契約された「単価」を掛けて工事金額を精算する点です。 

 
また、日本では主に改修工事や修繕工事等に採用されていますが、その理由としては、これらの工事では、例えば、既に建設時の図面がなく、天井裏など実際に工事に着手してからでないと既存の状態が把握できないケースや、建設時の図面が残されていた場合であっても、建物の現状が図面の通りになっていないケースがあることが挙げられます。その為、工事に必要な数量や経費については契約後の段階で確定した時点で計測してから、契約した「単価」と併せて工事金額を算出します。 

 
c)総価単価契約 

この「総価単価契約」は英連邦諸国において頻繁に採用されている価格契約方式です。具体的には、入札時における入札経費の無駄を省く目的でBQ書(Bill of Quantities|ビル オブ クォンティティズ)と呼ばれる工事数量積算明細書を発注者側が準備し、そのBQ書に基づいて入札者が値入れ業務を行うという数量公開による入札体制による価格契約方式となります。 

 
BQ書に提示する工事数量に関して、発注者側が責任をもつ契約数量として提示し、また、工事単価も契約の対象としているのが特徴です。したがって、BQ書は発注・契約図書の1部でもあり、この方式による請負業者との契約は、総価による請負工事であるが、また、同時に各工事項目単価も契約の対象となるので「総価単価契約方式」と呼ばれております。 

 
この方式の目的は、総価契約の総価のみの契約から、各々の工事単価についても受発注者双方が前もって合意しておくことで、設計変更等の場合の円滑な価格協議など双務性の向上にあります。近年では、契約金額の変更に関する根拠を予め契約時に定めておくことで、変更手続きを円滑に進めることができるようにする目的で、公共工事を含めて総価契約単価合意方式が適用されるケースも出てきています。 

 
ここで紹介した3タイプの定額請負契約についてまとめると、これまで前述したように発注の際に契約となる対象が異なることが下記イメージからも分かります。 

 
 

 
 

②実費精算契約(コスト・プラス・フィー契約)とは!? 

 
この「実費精算契約」は契約時点で事前に設計が確定していない場合や、技術的に未知の要素が多い場合など、請負に伴うリスク負担が大きく、無理に請負として契約にしようとすれば見積もりが高くなってしまう場合に活用される契約方式です。例えば、東日本大震災などの震災や災害における復旧工事では、緊急を要するが完成度の高い図面や仕様書が準備できないケースがあり、このような場合には逐次工事に要した実費を精算しながら工事を進めていく「実費精算契約方式」が採用されることとなります。 

 
この契約方式の特徴としては、発注者にとっては、対象となる工事の詳細が確定しない段階で工事をスタートできる一方で、最終的に工事が終わってみなければ、工事金額が幾らとなるか分からないというリスクを有する点が挙げられます。また、受注者としては、物価上昇など工事原価に影響を与えるリスクを負うことなく契約に基づいた一定の利益を確保できる一方で、実費清算を行う際に発注者より承認を得る為、承認用資料の作成に多くの手間・時間が必要となる点が挙げられます。 

 
また、この方式による最終的な工事金額は工事で要した「実費」と受注業者の「報酬」から決定されますが「コスト・プラス・フィー契約」とも呼ばれており、基本的には文字通り、下記の2つで構成され、これらによって最終的な工事金額が算出されます。 

 
・Cost=コスト(実費)労務費、材料費、機能費、プラス諸経費 

・Fee=フィー(報酬)|コストに対するパーセンテージ、一定額など 

 
一般に「コスト」は実費として要した金額で発注者によって承認された額となりますが、受注業者の報酬にあたる「フィー」については、コストに対するパーセンテージで決定される契約、コストとは関係なく一定額である契約、目標工事金額を大幅に下回った場合などにインセンティブを受け取ることができる契約など、プロジェクトによって採用される報酬形態が異なります。 

 
 

③目標コスト契約とは!? 

 
「目標コスト契約」とは「定額請負契約」と「実費精算契約」の中間的な価格契約で、「実費精算契約」をベースとして、工事に要する「コスト(実費)」と「フィー(報酬)」から最終的な工事金額が決定されます。具体的な特徴としては、発注者と受注業者の間で「目標コスト」を設定し、実費ベースで工事に要した費用が「目標コスト」と比較し、下回った場合はコスト縮減分の一部が受注業者へ分配される一方、超過した場合には超過分の一部または全てを受注業者が負担する方式である点です。 

 
この「目標コスト」は契約時点での図面や仕様書に基づいて発注者と受注業者の両者によって設定されますが、設計や仕様に変更などがあった場合は両者合意の基に調整されることもあります。 

 
一見すると「実費精算契約」と同様の契約にも見えますが、「実費精算契約」では受注業者が一定幅の利益を確保することが可能である契約なのに対し、「目標コスト契約」では、例えば、実費コストが「目標コスト」を大きく超過した場合などには、受注業者で想定していた利益が大幅に減ってしまう場合もリスクとしてあることが、両者の違いとして挙げられます。 

 
また「目標コスト契約」では、建設業者が最終的な工事金額の最高限度額を保証する契約、つまり、最高限度額を超過した場合の金額は業者が負担する契約として「GMP(Guaranteed Maximum Price)|最高限度保証額/保証上限金額」を設定する場合もあります。 

 
ここで、これまで紹介してきました価格契約方式のうち主要な方式について、その特徴やメリット・デメリットを下記のイメージのようにまとめてみます。 

 
 

 
このように、建築工事を発注する際の価格契約方式について様々な方法を紹介してきました。それぞれの方式における特徴やメリットやデメリットをよく理解したうえで、抱えているプロジェクトの目的や状況に応じた最適な方式を採用することもプロジェクトのカギを握ることとなる重要な選択となります。 

 
 
 

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プロジェクトのカギを握る価格契約方式とは!? 

 
佐藤隆良の建設コラム特集-発注・調達編」はこちらから↓ 

(1)建築工事の発注・調達は賢い買い物にしよう! 

(2)プロジェクトに応じた発注契約方式を検討しよう! 

(3)多様化する発注・調達の方式を学ぼう! 

(4)多くの選択肢より最適な発注方式を模索しよう! 

(5)プロジェクトを成功に導く発注・調達の方式とは!? 

 
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(1)世界62か国で建設費が最も高い水準なのは!? 

(2)世界の建設市場における労務費を比べてみる! 

(3)世界における建設市場規模はどの程度か!? 

 
 

著者紹介 

佐藤隆 

株式会社サトウファシリティーズコンサルタンツ 代表取締役 

 
 

1946 年生まれ。大学の建築学科を卒業後、イギリスの地方公共自治体建築部、及び民間コストマネジメントコンサルタント事務所に8 年間在籍し、公共施設や民間プロジェクトにおける開発計画業務のフィージビリティースタディー、建設経済分析・評価、コスト管理業務等に携わる。帰国後、1993 年(株)サトウファシリティーズコンサルタンツ設立。国内外プロジェクトの建設コストマネジメントを中心に、幅広いコンサルティングを手がける。2005 年、(社)日本建築積算協会理事・副会長そしてアジア太平洋建設コスト管理士協会(PAQS)会長を歴任。 

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